スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
切手帖とピンセット


「やっぱり本は愛がなくちゃね!」


 今でもまだ情熱冷めやらない私の趣味の一つに、切手蒐集が挙げられます。最も行動力があったのはハマり出した小学生の頃で、あの頃は近所の家を回っては使用済み切手を貰ったりしていました。日本のものばかりでしたが、たまに混じっている外国の切手がものすごく嬉しくて、暫くはそればかり眺めていました。初めて見た外国切手は、多分ニュージーランドのものだったと思います。勿論使用済みを集めるだけでは当時求めていた綺麗でお洒落なものが手に入るわけもなく、そんな時に近所のおばさんの息子さんが昔集めていたという切手を貰い受けました。箱を開けると、中に整理もされず乱雑に入れられた切手は大量、かつ珍しいものばかりでそれからはその今まで見たこともない切手の束に満足してあまり自分から集めることをしなくなってしまったのですが(笑)、今でも綺麗な切手を見るとあの頃の楽しかった記憶と共にコレクター魂が疼くのです。

 前置きが長くなりましたが、今回この本を手にしたのはそういった経緯があるからです。未だに切手モチーフのものには心惹かれるものがあるし、切手用のツールも見ていてときめきます。この本に出会ったのも偶然で、とにかくデザインのセンスが飛び抜けて良かったために何となく手に取ったのです。中身もそうですが、まず表紙が人目を引くデザインで、ちょっと中を覗いてみたくなるような表紙です。それも祖父江慎氏のデザインだと言われれば納得がいきますね。カバーを取ってからの本体の外装も凝ってます。紐しおりも鮮やかな赤が可愛らしい。布張りの背表紙やグラシン紙、ノルディックな小物、色のコーディネートなど、是非隅々まで見てほしい。
 このデザイン、というか本自体は筆者の加藤郁美さんがかなりこだわりを持って作ったらしく、月兎社ホームページの特設ページなどでもその情熱が伺えます。冒頭の言葉も本書の後書きから抜粋。本の作り手でも読み手でも、この一言に尽きますよね。何より本書に掲載してある切手のほとんどが加藤さんの私物だというのだからすごい。1シートの切手が一枚も欠けることなく並んでいたり、FDC(封筒に切手を貼って切手発行日の消印を押したもの)やセットで揃っていたりすると圧巻です。荒俣宏や伴田良輔など著名人のコラムもあり、国別の切手紹介もあり、歴史説明もあり……切手に関する深い知識もさることながら、本文中にこそっとある加藤さんの突っ込みがなかなか面白いです(笑) 雑学や豆知識が豊富で、各国の切手のノスタルジックなデザイン(主に1960年代)を楽しめるばかりでなく、そこに存在する歴史や背景など、加藤さんの考えも交えつつ書いてあるので、視覚的アプローチと合わせて、文章も「写真集のおまけ」になっておらず興味深く読めます。これも加藤さんの切手に対する愛の成せる業ですね。私のようなにわか切手ファン、切手初心者からコアなマニアまで、老若男女楽しめる作りになっていると思うので、興味のある方は是非どうぞ。

 実は筆者の加藤さん、「月兎社」という出版社の発行人でもあります。本書を買うまで知らなかったのですがラインナップを見るとなかなか面白い本がたくさんあり、限定品でここの通販でしか買えないものも。ホームページに過去の出版物もレコードとして残っているので、見るだけでも楽しいです。ただ売り切れのものでも欲しくなってしまうのが残念(笑) しかも通販でこの本を買うと、なんと今なら掲載してあるブルガリア「子ども読書週間」などの切手が一枚付いてくるという特典付き! 私はもう本屋で購入してしまった後だったので今更買えないのですが、まだ持ってないよー欲しいよーという方は是非月兎社の通販で。本の通販だけでなく輸入雑貨の通販もあり、加藤さんの計らいで切手だけでも買えますよ。


 昔の情熱を蘇らせてくれたり、新しい素敵な出版社に出会わせてくれたりと、なかなか一粒で何度も美味しい本でした。切手カタログとしてデザインを楽しむだけでも、いかがでしょう。


(2010.1.28)
book comments(0) trackbacks(0)
ビッグ・フィッシュ


「人生なんて、まるでお伽噺。」


 ユアン・マクレガーとティム・バートンという珍しい組み合わせ、また公開当時密かに話題になっていたことを思い出し、観てみました。もうとにかく大後悔。何故これを劇場で観なかったのか!
 ストーリーを口で語ってしまうと「だから?」と言われそうなシンプルなものですが、とにかく映像が美しい。導入部分の「ビッグ・フィッシュ」の辺りから本領発揮。ユアン・マクレガーの演技がこれまた良い。以外にも隠れた良作なのです。

 普段から自分の過去をあることないこと語り、本当のことを教えてくれなかった父と決裂していた息子。そんな父が危篤状態となり、息子は父から本当の過去を聞き出そうとする。病床にある父の口から語られるのは、それでもやはり夢物語。父の嘘か本当か定かではない過去と、現在の父の姿が交互に映し出されます。そこの対比が見事。ユアン・マクレガー演じる若き父親の、様々な色に溢れた美しい思い出の中を駆け巡りながらふと現実に戻ると、年老いた父親がベッドに横たわる無機質な灰色の世界。次第に息子も自分から父親の過去を探しに向かいます。町の外れに住む魔女の話、人食い大男の話、夢の町スペクターの話、サーカスで出会った運命の女性の話、そして繰り返し語られる「ビッグ・フィッシュ」の話。そのどれもこれもが信じ難く、またそれ故に面白い。最後の父親と息子が和解する場面は、なるべくしてそうなった、という自然な流れ。物語の山場でもあります。息子が父の心に触れ、全てを理解する。観客は息子の涙を見ながらホッとして、そのまま自分も思わず涙を流す。声を出して泣くような映画ではありません。泣かない人もいるかもしれません。それでも、ラストの美しさには感動せずにはいられませんでした。その美しいラストが息子の口から紡ぎ出されたものだという事実が、また涙腺を刺激するのです。

 正直に生きることは大切だけれど、それが楽しくないのだったら少しのスパイスは必要。物語を語ることで父は物語それ自身となり、それは彼が死んだ後もずっと残るのだ、という息子の言葉はある種真実だと思います。何度観ても良い映画です。未見の方は是非。


(2010.1.3)
movie comments(0) trackbacks(0)
百姓貴族 1巻


「水がなければ牛乳を飲めばいいのに」


 本誌で連載されていた頃から今か今かと単行本化を待ち続けた荒川弘のエッセイ、やっと出版されましたね!
 御存知の通り、荒川弘と言えば『鋼の錬金術師』。そんな荒川弘の根っこを作ったのが、ずっと育ってきた実家北海道の農家。読んでいると一般市民である我々とは全く違う常識で驚くことが沢山あります。エッセイの真髄と言うか、農家のことをここまで分かりやすく面白く描いてくれるとなんだか有り難みまで感じてしまうと言うか。
 掲載誌はストーリーモノよりもエッセイモノが多いような雑誌『ウン・ポコ』(影木栄貴『エイキエイキのぶっちゃけ隊!!』、久世番子『暴れん坊本屋さん』などなど)、その中でも群を抜く面白さでした。農家の贅沢な一面、一抹の淋しさを感じさせる一面や農高の忙しさ、厳しさなど、普通に生きているとまず味わうことのない経験ばかりです。北海道ならではの部分もあります。荒川弘のネタの面白さもありますが、農耕データなど色々な発見があるので農家を志す人にも良いのでは、と思うこの一冊。消費者側にも生産者の視点を通して語りかけるものがあり、お勧めです。
 しかし荒川弘が漫画家になると決心したエピソードがすごい。この人だからこそですね。


(2009.12.27)
comic comments(0) trackbacks(0)
星間商事株式会社社史編纂室


「消えることのない愛情の光を、だれかの胸に灯せる人間が、いったいどれぐらいいるだろう。」


 今回はとにかく三浦しをんの趣味爆発、と言った感じ。これまでは陸上・文楽・林業と、今まであまり触れる機会の無かった世界のことを親しみやすい文体でエンターテイメントとして発信してきましたが、今回のテーマはなんと「同人誌」。しかも「創作BL」まで絡んでくるという、恐ろしき腐女子文化への招待です(笑)。そちら側に造詣の深い読者ならまだしも、何も知らない一般の(それこそ男性の)方が読んだら一体どんな反応が返ってくるのか……少々不安でもあり、楽しみでもあります。

 今回の主役は久しぶりに女性。旧友3人で学生時代からずっと創作BL同人誌を作ってきた川田幸代29歳。コミケ(コミックマーケット)にもほとんど毎回参加している。そんな自分の趣味の時間を確保するために、きちんとした時間帯で、きちんと休日にまとまった時間が取れて、仕事がプライベートの邪魔をしない、そんな職場を希望したばかりに飛ばされた「星間商事社史編纂室」。そこでのあまりのユルさに驚きはしたものの、趣味を取って敢えてそこに安住しかけている。そんな中、ふとしたことで課長に幸代の同人活動(サークル:月間企画)がバレてしまう。「君、腐女子というやつだな。」課長の言った一言「同人誌を作ろう!」により、チャラいナンパ男の矢田、可愛い後輩のみっこちゃん、役に立たない課長プラス居るのかどうかも定かでない幽霊部長と共に同人誌を作ることに。並行して社史を編纂する中で見えてくる星間商事の影。かつてあった星間商事の闇の時代とは一体……?
 という感じのお話。アジアの架空小国サリメニを中心に、一見ファンタジーとも思えるストーリーが展開します。幸代が物書きでもあるため、作中でBL小説が展開されるのですが、これがなかなかに濃い。勿論濡れ場は描写されていないものの、本業が作家である三浦しをんが書いているものですから、大変上手い。続きが読みたくなります。松永と野宮の二人(男同士ですよ)の話が一応の完結を見せた時には思わず拍手しそうになりました。課長の創作話も、ストーリーの中核を成すある海賊の「物語」も面白い。このような世界に免疫がある人は良いですが、読者の中には三浦しをんの趣味を知りつつも受け入れられず、あるいは全く知らずに著作を読んでいる人も大勢いると思うので、大衆向けかと問われると素直にハイとは言えない作品ですね。ただ、その物書きである幸代のモノローグは、少なからず著者本人の本音も入り交じっているように見えて何だか真剣に読んでしまいました。物書き三浦しをんはこんなスタンスで執筆活動をしているのか、と勝手に思っているのですが、どうなんでしょう。
 あと、オタクに限らず女性の永遠の問題、恋愛と結婚についてがやけにリアルに語られています。友人はもう結婚して母親にまでなっているのに、私はどうなの? 私はまだオタクで居られるけど、私たちはこれからもずっとこうして居られるの? もし止めるのなら、友情は一体どうなるの? という幸代の煩悶がそのまま悩める女性たちの煩悶ですね。ストーリーが若干妄想爆裂気味(でも面白い)であるために、逆に幸代のプライベートな問題と内面が浮き彫りになっていて興味深いです。作中の登場人物達は皆それぞれに答えを出していますが、羨むべきは幸代にも一応彼氏がいること(笑) そこが現実の多くの腐女子とは違う点です。だからこそ「結婚」の二文字がリアルに突きつけられるわけですが。
 これを読んだらオタク達は勿論のこと、女性であれば誰でもその問題について考えるはず。いつまでもオタクでは居られない、いつまでも子供では居られない。そんなノスタルジアがそこはかとなく漂ってきます。ただ本当に挿入されている幸代のBL小説は本格的BL小説なので、苦手な人にはお勧め出来ません。あらゆる意味で「腐女子向け」の作品でした。

 何度も言いますが、腐女子向けですので、腐女子が読むと大変面白いと思います。


(2009.12.27)
book comments(0) trackbacks(0)
乱と灰色の世界 1巻


「本当はね ママみたいに飛んで行きたいの! でもやり方知らないんだよね」


 『群青学舎』以来の入江亜希の新刊です。連載しているのは知っていましたがどうにも本誌を手に入れることが出来なかったために、コミックスが初読という形に。表紙のキャラクター大集合な感じが大好きです。見てるだけで楽しい。表紙カバーを取った後の本表紙の装丁も素敵です。
 今時珍しく、ストーリーはとにかくベタベタ。古き良き魔女っ子ストーリーとでも言うのか、磐石なファンタジーです。
 跳ねっ返りで自分の力で空飛ぶことを夢見る小学四年生の漆間乱は、学校ではイジメに遭い、家では兄の陣に怒られてばかり。母の静はとても力の強い魔女なのに、その娘のはずの乱の魔法はいつも上手くいかない。そんな彼女にも一つだけ得意な魔法があった。一見彼女には大きすぎて合いそうにないスニーカー、これを履くと大人の美女に変身することが出来るのだ。
 と、簡単に説明してしまうとすごくチートでチープな筋立てなんですが、これがまた入江亜希が描くと本当に面白い。雰囲気のある絵が何か迫力を与えてるとしか思えない。私個人としては『コダマの谷』時代、と言うかそれ以前の同人活動時代の絵柄が好きなんですが、今の絵柄も華があって素敵です。この作品には今の絵柄が一番合う。作風が変わってもがっかりさせないのは、元々恐ろしく絵が上手いからなんでしょうね。大人乱の美しさには凰太郎でなくてもドキドキします。画面がとにかく豪華で、陣が走る一連の描写には引き込まれるようでした。風と光の描き方が秀逸だなあと思います。とにかく画面が眩しい。「さっきから目が チラチラする」まさにこの言葉の通りです。乱が常に輝いてます。
 成長後の乱に恋してしまった凰太郎、なかなか職場から帰って来られない母親・静、その母が見つけたと言う乱の新しい家庭教師。一巻がなかなか気になる引きで終わっているので二巻が待ち遠しいです。『Fellows!』が隔月刊なのが恨めしい。森薫の『乙嫁語り』と同じく今後が楽しみな作品です。


(2009.12.11)
comic comments(0) trackbacks(0)
娚の一生 2巻


「過去の話をすると君は下を向くんや 過去には戻れへんのに」


 『ひとりで生きるモン!』『STAY ああ今年の夏も何もなかったわ』以来他と一線を画した漫画家だと思って見守って来た西炯子、今回はクリティカルヒット。何を隠そう、私はけっこうオジサンと若者の組み合わせが好きなのです。

 東京でデキるOLとしてバリバリ働き、少しは休んでみようと田舎に帰ってきた途端、家主の祖母が逝去。ならば、とその家を買ってでも一人で過ごそうとしたら何故か中年と初老の間のような男、海江田醇が勝手に一緒に暮らす、と言い出す始末。何が何やら、私は静かに暮らしたい! という30代、堂薗つぐみが主人公のお話です。
 とにかくその海江田さん、いい年をした大学教授のくせに、つぐみに対して押せ押せです。何だかこれがまた新鮮で、主人公が可愛くてモテるという少女漫画の典型的な恋愛話でも気にならない。西炯子の間の取り方と所々入るギャグが上手いからなのか、とにかく海江田さんの年甲斐もないアタックに不本意ながらドキドキしてしまいました。周りの人間関係も面白い。  フラワーコミックスではあるものの、対象は明らかに女子高生ではないです。仕事を経験して、出来れば結婚してある程度疲れたとき(?)に読むとしっくりくるのではないか、とのご意見あり。私もいつか妙齢に達したときにもう一度読んでみたいと思ってます。その時まだラブロマンスを楽しめるだけの心の余裕がありますように。

 『STAY』シリーズのような感覚で読むと肩透かしを食らいますが、しっとりとした恋愛を楽しみたい方にオススメ。ただヤマシタトモコの『Love,Hate,Love』でも思いましたが、年齢差の大きい二人ってどうしてこう反対されるんでしょうね。不思議。


(2009.12.11)
comic comments(0) trackbacks(0)
きつねのはなし


「彼はふいに骨張った十指をひらいて、顔を包み込み、大げさに泣き崩れているような格好をした。掌に覆われた顔が暗くなり、指の隙間から眼球がのぞいていた。」


 初期の比較をしてみようと『太陽の塔』から続けて読みました。装丁と雰囲気から怪談モノだとは思いつついつもの森見節を期待して読んだら、全く違う。あの良い感じに気持ち悪い言葉遣いが全くと言っていいほど無いのです。
 狐の面を巡る不思議な男の話を描いた表題作『きつねのはなし』、夢のような話を語る先輩との交流を描いた『果実の中の龍』、人の心を惑わせる何者かを描いた『魔』、夢か現か分からない中に幼い頃の記憶を見る『水神』。京都を舞台に展開する妖の類いを描いた全四作の短編からなるこの作品、全編通して読んでもいっそ面白いほどすっきりしません。所々キーワードやキーセンテンスは一致するものの、何かがズレている。一話一話がリンクしているようでしていない、でもやはりどこかで繋がっている気がする。だとしたら、あの「魔」は一体何なのか(と言うほど、一番分からなかった話が『魔』でした)。読んでも読んでも、読後のモヤモヤは増すばかりです。そのモヤモヤを好意的に捉えるか鬱陶しいと捉えるかは読者次第ですが、私は半々でした。京都の闇の部分に足を踏み入れたような、一度嵌まると抜け出せないような中毒性があるように思います。繰り返し読むうちに何か一本の筋が見えてくる……ような気がします。蛇足ですがやっぱり表題作が一番面白い。あの一編を軸に考えるのが一番分かりやすいのではないでしょうか。それこそ、『果実の中の龍』にあった「本当でも嘘でも、かまわない。そんなことはどうでもいいことだ」の一言に集約されています。

 異質ではあるものの、森見登美彦の可能性の大きさを思い知らされた作品でした。またこのような作品が出ることを期待しています。


(2009.11.26)
book comments(0) trackbacks(0)
太陽の塔


「我々の日常の九〇パーセントは、頭の中で起こっている。」 


 森見登美彦の原点でもあるこの作品、とにかく森見作品の全ての基盤はここにあるんだと思います。一つの作品として完成しながらも、『夜は短し歩けよ乙女』のプロトタイプでもあり、『四畳半神話体系』の走りでもあり、『有頂天家族』のトライアルでもあり。随所にこれからの佳作の片鱗が見られます。
 森見作品内の恋愛は、とにかく何処か気持ち悪い。妄想に基づく思考から来ているというのもあるのでしょうが、如何せんオタク臭い。そして語り口から何となく受ける自慢気な印象。これらの要素を嫌う人はたくさん居るとは思いますが、私自身はその要素が無ければ森見登美彦じゃないと思ってるのでまったく問題ありません。彼の文章からそれらのアイロニーと気持ち悪さを取ったらただの「京都での恋愛を淡々と書く作家」になってしまいます。それは嫌。彼にはこれからもある種の優越感を滲ませながら書いていってほしいです。今までの作品がキャラ付けの関係でこの文体に落ち着いたのかもしれず、全ての作品がそういった作風になるとは限らないのでどうなるか分かりませんが、これからも小気味良い自慢を期待しています。

 しかし不思議なのが森見作品に出てくる女の子が一種の「恐怖の対象」「不可解な存在」として書いてあること。長野まゆみ作品でもそんな雰囲気があるのですが、『有頂天家族』の弁天さま然りこの作品の水尾さん然り……何かコンプレックスでもあるんでしょうか?
 気持ち悪い、男臭い、恥ずかしい。こんな言葉がぴったりくるような作品ですが(誉めてますよ!)、とにかく面白い。ファンタジーノベル大賞というのも頷けます。妄想もファンタジーですからね。今と比べると文体とキャラクターの作り方に若さがあり、ライトノベル感覚で読めるので若い人にも手に取りやすいのではないでしょうか。私が森見フリークということを抜きにしても、お勧め。


(2009.11.24)
book comments(0) trackbacks(0)
風が強く吹いている


「この10人で襷を繋ぐ。それが俺の夢だ。」


 原作を読んで感動したのが記憶に新しいこの作品、映画化の情報を聞いた時からずっと楽しみにしていました。10月31日から公開だったんですが、色々あってやっと観に行くことが出来ました。最近若手を起用して若者の映画離れを食い止めようとしてるらしいですがあまり効果を上げていない様子。その余波もあってか映画館には人も少なく、かなり快適でした。

 ストーリーは大体原作通り。冒頭いきなり出てきた小出恵介扮するハイジのあまりのかっこよさ(※ファッション)にかなり驚きはしたものの、竹青荘が自分の想像していたものとまったく同じだったことに感激しました。想像通りのセットに加えて、キャスティングも上手い。ちょっとニコチャン先輩(川村陽介)がかっこよすぎるかなとも思いましたが、許容範囲です。ユキ(森廉)も神童(橋本淳)もぴったり。特に神童が良い。多分映画化して一番映えるエピソードは神童のそれだと思います。結果普段映画では泣かないと自負している私も、目の前に座っていた厳格そうなおじさんでさえも鼻をすすってました。ハンカチを持って行くべきだった。双子の役はどうしても斉藤兄弟にオファーが行きますね。ただ彼らも城兄弟を上手いことお茶目に演じていてイメージ通りでした。王子の努力を一生懸命演じた中村優一もすごい。何より林遣都の演じたちょっと神経質そうで、でも素直な走がとても良かった。陸上に関しては素人なのであくまで私見ですが、特に走る姿が美しいです。足が綺麗。そしてそんなみんなを支える小出恵介の演技が大変素晴らしい。この二人の演技あってこその作品です。終盤の小出恵介の演技は必見です。
 競技中、原作では10区を順に走る一人一人の心中が丁寧に語られてそれが感動を誘うんですが、やはり二時間という映画の性質上全員のエピソードを語るのは無理なわけで、数人がただ繋ぎで走るだけになってしまったのがしょうがないとは分かっていても残念です。全ての人に原作を読めとは言えませんが、やはり文字だからこそ伝えられることもあると思うので是非この映画から本を読んでほしい。もちろん駅伝をテーマにしたフィクションなので結末には賛否両論あるでしょう。ただ、私が原作好きだからかもしれませんが、エンターテイメントとして良作なので、原作を読んだ人も読んでない人も是非映画館に足を運んでください。あれは大きなスクリーンで観るからこその作品だと思います。

続きにネタバレも含むもう少し突っ込んだ感想


(2009.11.15)

続きを読む >>
movie comments(0) trackbacks(0)
もえない―Incombustibles


「どうして、わざわざ残るようにできているんだろう? ずっと未来まで、骨だけは残ったりするんだ」


 久し振りの読書、ということで馴染みのある森博嗣からリハビリがてら読み始めたわけですが、相変わらず森さんらしい文章です。ちょっと勘を取り戻すのに時間がかかりました。『スカイ・クロラ』シリーズがバイブルのようだった時期もあったと言うのに、本離れは恐ろしいものです。

 粗筋はリンク先で確認して頂くとして(私が書くより断然分かりやすいので)、この話、一応ミステリーに分類されるようですが正直まったくミステリーらしくありません。主人公淵田くんの一人称で話が進むものの、そこに感情描写が殆どと言って良いほど伴わないからです。見方によっては軽くホラーかもしれません。何となく雰囲気が栗本薫のホラーに似ています。文体は恐ろしく森調、特に謎を解くわけでもなくラストは急な展開なので、正当なミステリーファンには物足りなさが残るだろうと思います。導入部分が萩尾望都の『トーマの心臓』に似たものがあったため最初はこんなハードな展開になるとは思いもよらず……ただ森調のおかげであっさりと読めます。同じ事件でも宮部みゆきが書いたらもっと重いものになるんだろうなあ。読後のちょっとした不快感(森さんや内容に対するものではなく、登場人物の人間性に対する)は石田衣良の『うつくしいこども』に通じるものがあります。つまりはそういう話です。最後の一文に全てが集約されてるんですが、私はうっかりそこから読んでしまったので読んでいる間はずっとその言葉の意味を考えてました。キーワードから内容を想定しながら読み進めると言うか、そういう読み方もアリかもしれないですね。

 秀逸なのが装丁です。ハードカバー版に限りますが、とにかく表紙が内容を上手く表しています。パッと見綺麗なお花畑なので森さんの『どきどきフェノメノン』の類いの話だろうと思って手に取ったら良い意味で痛い目にあいました。読後よくよく見てみると、題字などへの細かい細工がすごいです。さすが。本の装丁が素敵ならそれだけでモチベーションが上がりますが、それに内容が伴う時の興奮といったらないですね。

 正当ミステリーファン、初期森ミステリーファン、森ビギナーにはちょっとオススメできませんが、同氏のさらりとした詩集めいた文体が好きな方には良いと思います。アマゾン評価システムを借りて評価してみると、個人的には★★★☆☆くらい。


(2009.11.10)
book comments(0) trackbacks(0)

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< September 2017 >>

Categories
Selected Entries
Archives
Recent Comment
Profile
TweetsWind
Mobile
qrcode
Sponsored Links