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勝手にふるえてろ


「イチなんか、勝手にふるえてろ。」


 実は綿矢りさ作品を読んだのは今作が初めてです。受賞作である『蹴りたい背中』は受賞作であるが故に天の邪鬼精神が邪魔をしてどうにも食指が動かず。今回もネームバリュー云々の前に表紙のポップさとタイトルに惹かれ、何となく手に取って読み始めたのです。表紙はなかなか女性受けしそうな柔らかな雰囲気、帯も押し付けがましくないので、20代女性の目を惹き付けるには十分ではないでしょうか。
 26歳、OL、そして処女である主人公には、二人の彼氏がいる。一人は中学時代からずっと見つめるだけの恋をしている「憧れの彼」、イチ。主人公の記憶と妄想の中で、イチはいつまでも憂いを帯びた美しい天然王子である。もう一人はコンソメ系の体臭のする無骨な同僚、ニ。主人公はニのことは別に好きではないけれど、ニは主人公と付き合いたいと言ってくる。主人公はイチが好き、でもこの年になったら安定した結婚を求めたい。なら、自分を愛してくれるニの方が幸せなのでは? ある日、このままでは埒が明かないと思い立った主人公は、イチに会うべくとある計画を立てる――。

 結論から言うと、とても薄いです。特にハラハラした展開があるわけでもなく、口でストーリーを説明してしまうと「で?」で終わってしまう。とても小さい円の中をぐるりと回って大人しく丸く収まった感じ。少女漫画を読み慣れている人には取っ付きやすい内容ではないかと思います。本の厚みに反して行間も広く文字も大きいこと、また、文体が独特でテンポが良いためにさくさく読めて、長さでも内容でも軽読書に最適です。
 文体は独特とは言っても、森博嗣や森見登美彦に比べれば読みやすい以外の何物でもないし、一文が短いので情景描写と心理描写が順繰りに連ねてある感じです。会話などはやはり若者らしく、ああ若い作家さんが書いたんだなといった印象。テンポの良さと、キーパソン二人をずっと「イチ」「ニ」と呼び続けるセンス、最後まで名前が明かされないところなんかは面白いです。
 設定とストーリーの単純明快さは、やはり筆者が若いことに起因するんでしょうか。途中経過にしてもラストにしても、「ああやっぱり」という印象が拭えません。結局こうなるのね、と。でも現代の女性の価値観なんてこんなものじゃないかなあと思わないでもないと言うか、むしろ主人公に共感する女性は結構居るのではないでしょうか。シチュエーションがモロ被り、なんて人はもっといると思います。ただ主人公がオタクであるということは抜きにして。主人公の突飛さやコロコロ変わる心理なんかは、現代人っぽいなあと思いながら読みましたし、私自身も主人公の考え方に一部共感してしまうところもあったりして、私も結局は人生経験のない若輩者だからなあと反省したりもしました。(こんな偉そうなこと書いてますけども……。)蛇足ながら一応私の共感したところについて述べますと、一つは主人公の趣味、もう一つはニに対する主人公の認識とスタンスです。すごく分かる……とか思いながら読み進めましたが、ラストの主人公のキレっぷりには思わず苦笑してしまいました。アニメイト発言が何とも。ついでに主人公が反省するポイントでは同じく私も反省しました。そういう意味では、文学的なものでなく個人的に目から鱗的な驚きがあって読んで良かったなあと思います。

 総括して、宮部みゆきや伊坂幸太郎、その他受賞者の作品を読んで目が肥えている読者は、読んでもあまり面白くないかもしれませんね。むしろ普段あまり本を読まない、それこそ20代女子の方が面白く読めると思います。個人的には、文体とタイトルのセンス、冒頭の「とどきますか、とどきません。」という抽象的な主人公の内面描写から、いきなり具体的な音姫の描写に入るスイッチ加減が好きなので、ツボにはまるテーマで書いてくれたらかなり好きになれる作家さんじゃないかなあと思います。

 次回作に期待!


(2011.1.13)
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