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ダゲレオタイピスト


「僕が死んだら、僕のことを写真に撮っていいし、それを永遠にあなたのものにしてもいい」


 銀板写真<ダゲレオタイプ>――ニエプスが発明し、のちにダゲールの手により、1837年に完成された世界で最初の写真技法。鏡の様に磨き抜かれた銀板の表に写し取られた精緻な像は、「記憶する鏡」と賞され西欧社会の人々を魅了し、その技法は瞬く間に世界へと広がっていった。――
 これまたマイナーですが、この作品は先だって紹介した月兎社から限定品BOXとして刊行された後、青林工藝舎にて単行本になったものです。表題作の『ダゲレオタイピスト―銀板写真師―』に加え、描き下ろしである『The widow of fisherman can't stop knitting』も収録。元のBOXの方も装丁から付属品まで細かいところまで凝っていて素晴らしかったのですが、単行本でもまず目が惹かれるのが表紙。銀板をイメージした表紙が見る角度や光の加減によって色が変わり、虹色に見えるのが美しい。黒地に銀糸で書いてあるような文字も、作品の雰囲気をよく表しています。流石、弱小出版社の良いところは、融通のきく範囲であれば装丁に思う存分力を入れられるところです。一辺倒の装丁にならないために個性が出て素敵。ただ、やはりそれなりのお値段もかかるわけですが。この作品に関しては値段に見合った内容だと思います。
 卓越した技術を持ちながら死人しか写さないという銀板写真師、夫を亡くした美しい未亡人の癒えぬ悲しみ、二つの作品に共通するのは「死」に付きまとう暗い一面と、そこから生まれる光あるものへの憧憬ではないかと思います。『マクベス』を彷彿とさせる三人の黒衣の女性によって語られる、海で死んだ夫への愛を証明するためにただひたすらニットパターンを編み続ける女の聖性と、しがらみから解き放たれて自由になった女の世俗性。生きている姿よりも生きているように見える死人の写真という悲しい銀板写真のパラドックスに悩まされながらも愛を見出すフレイザー、弟の死を通して居場所を無くしながらも自らの本当の姿を見つけ出そうとしたアーネスト。救いがあるもの無いものそれぞれですが、そこにあるのは「死」の二面性です。
 『ダゲレオタイピスト』において死ななければならなかった美しい弟ダニーの死には、萩尾望都の『トーマの心臓』におけるトーマの死と同じものが感じ取れます。トーマの死がユリスモールの未来を導いたとすれば、ダニーの死はアーネスト自身の心の深淵を照らし出したと言えます。その切欠を作ったのが銀板写真であり、それを終わらせたのも銀板写真である。後味の良い終わり方ではありませんが、これも一つのハッピーエンドではないでしょうか。反対に、明らかにバッドエンドだと分かるのが『The widow of fisherman can't stop knitting』の方。夫への祈りを捧げ続ける貞淑な妻と、居なくなった夫のことは忘れて新たな人生を歩む妻。聖と俗、どちらが幸せかという問い掛けです。ささやかに触れられる黒衣の女たちの悲しみにも目を向けたいところ。人によって様々な解釈があると思いますが、私は結構あの三人が好きです。

 とにかく絵が美しく繊細なので、画集を見る気持ちで買っても良いのではないでしょうか。著者の他の作品も読んでみたくなりました。鳩山郁子入門編として『ダゲレオタイピスト』を選んだ人は多いのではないでしょうか。月兎社発行の限定版がとても美しく、個人的に何より欲しいのが『コリンとノルウェイメープル飛行隊』なんですが、Amazonでも月兎社でも売り切れなんですよね。残念。青林工藝舎からも他に何冊か出ているので、まずはそちらを買ってみたいと思います。


(2010.1.28)
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