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乙嫁語り 2巻


「そうするのが当たり前で、ごく日常の風景であり、つまりは生活である。」


 待望の2巻です。掲載誌が隔月なのが恨めしい……。ただ、それだけ待った分内容の充実っぷりにはもう平伏するしかありません。

 ページを捲る度に、画面が流石森薫、という書き込み様。今回は特に布・刺繍の描写が多かったため、1巻の彫刻よりも装飾の細かさが如実に分かります。普通ならこれだけ細かく描いているとイライラするものですが、森薫のすごいところは装飾品だの刺繍だの文様だのを描いている時を「わたし今生きてる!」と至上の喜びだと思えてしまうところですね(あとがき参照)。すごい。アクションシーンも臨場感たっぷりで、『エマ』の1巻が嘘のような美しさ。この作品でも1話と今とを比べるとかなり書き込みの量が増えているので、森薫の上達ぶりが伺えます。
 ストーリーとしては、今回は少しばかりシリアスめ。前巻から匂わせつつあったアミル連れ戻し計画が本格的に開始されます。アミル側の家族にも様々な事情がある様子……いつかアゼル・アミル兄妹の過去編をやってくれる時を心待ちにしています。この事件を通してアミルとカルルクの絆がより深まったと言えますが、8歳差というのはやはり大きい。いくらカルルクが年齢の割にしっかりしていると言っても、所詮はまだ子供。今の時点で15歳ぐらいだったら、今回の戦いでも別の道があったのでは、とも思います。そのままでも十分かっこいいんですけども。アミル側の一族、カルルク側の一族間の対立から、各々の部族の外敵に対するスタンスが見えたりして面白いです。同じような地域に居ても考え方が全く違ったり、開放的だったり閉鎖的だったり。ちらりと出てきたヌマジの古代中国のような文化だとか、来客から見る意外に拓けた文化だとか、情報量がいつにも増して多いです。読む度に新たな発見があって楽しい。ただ一つ、残念ながら若輩者の私には『嫁心』の意味がよく分かりませんでした。森薫の話はたまに趣味に走りすぎ「ん?」となるので、今回もそれが出たのか単に私が理解していないだけなのか……。

 さて、アミルとカルルクの間も落ち着いて、次回からはスミスの旅路を追う形になるとのこと。ということはもう二人の成長を見ることは出来ないということなんでしょうか? 新しい土地、新しい嫁も勿論楽しみですが、まさか主人公交代、なんてことになるのでしょうか? 今すぐ買いに走りたいほど本誌が気になるところですが、大人しく3巻を待つこととします。ごちそうさまでした!


(2011.6.15)
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イン・ワンダーランド 1巻


「星々の聲を聞くための数学、魔力に魅入られない精神力と体力、そして真の豊かさを忘れぬために文学を。」


 前評判もあらすじも何も知らずに、Fellows掲載作品だということだけで買いましたが、正直あまりにも自分好みでびっくりしました。表紙のビアトリクス・ポター作品のようなかわいい動物たちと、帯の本文抜粋(キプリング先生の「新学年は苦手だった科目も心機一転頑張れる、とてもいいチャンスです。」)にコロリとやられました。絵柄は確かに好みが分かれそうですが、私はかなり好きです。森薫のようなはっきりとした線ではなく空気感を含む柔らかな線で、魔法と人間が共存する不思議な世界を鮮やかに描き出しています。トーンの使い方が岡野玲子に似てるかも。主人公のエリゼを始め、友人でウサギのリリィにアンニカ、カメのバーバラ、ちょっと意地悪な人間の兄妹サミュエルとコーネリア。整った線ではないために時々状況がつかみにくいところがあるものの、不思議の国のアリスを彷彿とさせながらも、素直でのびのびとしたエリゼやリリィの姿を見ていると心が和みます。

 まだまだ物語は導入部分なのか、公爵夫人の正体やこの世界における魔法の位置付けなど分からないことだらけ。まるでピーター・ラビットとアリスとマザーグースが共存するようなこの世界で、魔法は普通に存在するもので誰にでも使えるけれど、「魔女」は何か特別な意味を持つのでしょうか? エリゼと「公爵婦人」は出会うことがあるんでしょうか。いつか点と点が繋がりそうな雰囲気を漂わせつつ短編連作形式に、まさにワンダーランドに居るような気分にさせてくれる作品です。鳩山郁子や五十嵐大介、川原由美子あたりが好きな人にお勧め。次巻が楽しみです。


(2010.5.4)
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娚の一生 3巻(完結)


「君はひとりで生きていったらええ。ぼくもひとりで生きていく。ふたりして、ひとりで生きていこや……」


 待望の新刊にして完結巻。じっくりと二人の心の距離を書いていくものだと思っていたので意外と短くまとまってしまったのは残念ですが、ただ続けるだけのためにずるずる引き延ばされるのも何だかなあと思うので、これで良いかなとも思います。実際は好き合った二人がいてそこにライバルが次々介入、なんてドラマそうそう無いですから、スパッと終わるのはある意味リアルなのかも。
 さて、2巻まではつぐみの心の動きに重点が置かれていましたが、今回ばかりは海江田さんの「人間らしさ」がやっと表面に出されていました。元彼と比べられたら誰でも傷つくわけで、それをされた海江田さんの反応は極端とは言え当たり前です。逆につぐみが鈍い。この二人がお互いに好意を持っていることは十分伝わってくるのですが、如何せんどこか諦めているところのある二人なので、読んでいるこちら側はそんなすれ違い寸前の危ういバランスにドキドキ……。というかハラハラしてました。またそんなこと言って! と、一言発する度に空気が凍結するようなこともしばしば。それでも二人のお互いへの気持ちが変わらない、むしろかえって強くなるというのはすごい。青春云々はどうあれ、恋愛に年齢制限は無いのだと考えさせられます。
 今回はなし崩し的に大きな事件が起きるんですが、これはどうも賛否両論のようです。今までが日常に潜む仄かなドラマを淡々と描いてきた作品だった分今回の展開は予想の斜め上すぎて、確かに御都合主義と言われればそれまでなのでしょう。ただ私はどちらかと言うと嫌いではないです。全ての話を丸くおさめることの出来る展開(これが御都合なわけですが)だったので、大団円としては申し分ないのではないでしょうか。あと、やっぱり二次元でフィクションなわけですから、こういうドラマが待っていても良いんじゃないかと思うわけです。私個人はこのリアルとフィクション(エンターテイメント)の絡ませ方が好きですが、ここはどうしても個人の好みによるので一概に言えることではありませんね。

 最初から最後まで、一貫して感情や想いの一つ一つを丁寧に、しつこすぎず爽やかに描いてあります。若さ・青さから来る爽やかさではないところがこの作品の売りなんでしょう。特に「過去」に対する二人の向き合い方。海江田さんの後悔と、つぐみの後悔、どちらも引き摺っていたものを清算できたのがこの最終巻。海江田さんもつぐみに何度も過去を忘れるように言葉の端々で諭していましたが、実は一番過去に囚われているのは海江田さんだったのです(自分の過去、つぐみの過去に関わらず)。それが爆発して昇華される。人間、いくつになってもときめきは忘れたくないものですね。もっと自分が成長して、社会の荒波に揉まれてやりきれなくなった時にもう一度読み返したい作品です。


(2010.5.4)
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ダゲレオタイピスト


「僕が死んだら、僕のことを写真に撮っていいし、それを永遠にあなたのものにしてもいい」


 銀板写真<ダゲレオタイプ>――ニエプスが発明し、のちにダゲールの手により、1837年に完成された世界で最初の写真技法。鏡の様に磨き抜かれた銀板の表に写し取られた精緻な像は、「記憶する鏡」と賞され西欧社会の人々を魅了し、その技法は瞬く間に世界へと広がっていった。――
 これまたマイナーですが、この作品は先だって紹介した月兎社から限定品BOXとして刊行された後、青林工藝舎にて単行本になったものです。表題作の『ダゲレオタイピスト―銀板写真師―』に加え、描き下ろしである『The widow of fisherman can't stop knitting』も収録。元のBOXの方も装丁から付属品まで細かいところまで凝っていて素晴らしかったのですが、単行本でもまず目が惹かれるのが表紙。銀板をイメージした表紙が見る角度や光の加減によって色が変わり、虹色に見えるのが美しい。黒地に銀糸で書いてあるような文字も、作品の雰囲気をよく表しています。流石、弱小出版社の良いところは、融通のきく範囲であれば装丁に思う存分力を入れられるところです。一辺倒の装丁にならないために個性が出て素敵。ただ、やはりそれなりのお値段もかかるわけですが。この作品に関しては値段に見合った内容だと思います。
 卓越した技術を持ちながら死人しか写さないという銀板写真師、夫を亡くした美しい未亡人の癒えぬ悲しみ、二つの作品に共通するのは「死」に付きまとう暗い一面と、そこから生まれる光あるものへの憧憬ではないかと思います。『マクベス』を彷彿とさせる三人の黒衣の女性によって語られる、海で死んだ夫への愛を証明するためにただひたすらニットパターンを編み続ける女の聖性と、しがらみから解き放たれて自由になった女の世俗性。生きている姿よりも生きているように見える死人の写真という悲しい銀板写真のパラドックスに悩まされながらも愛を見出すフレイザー、弟の死を通して居場所を無くしながらも自らの本当の姿を見つけ出そうとしたアーネスト。救いがあるもの無いものそれぞれですが、そこにあるのは「死」の二面性です。
 『ダゲレオタイピスト』において死ななければならなかった美しい弟ダニーの死には、萩尾望都の『トーマの心臓』におけるトーマの死と同じものが感じ取れます。トーマの死がユリスモールの未来を導いたとすれば、ダニーの死はアーネスト自身の心の深淵を照らし出したと言えます。その切欠を作ったのが銀板写真であり、それを終わらせたのも銀板写真である。後味の良い終わり方ではありませんが、これも一つのハッピーエンドではないでしょうか。反対に、明らかにバッドエンドだと分かるのが『The widow of fisherman can't stop knitting』の方。夫への祈りを捧げ続ける貞淑な妻と、居なくなった夫のことは忘れて新たな人生を歩む妻。聖と俗、どちらが幸せかという問い掛けです。ささやかに触れられる黒衣の女たちの悲しみにも目を向けたいところ。人によって様々な解釈があると思いますが、私は結構あの三人が好きです。

 とにかく絵が美しく繊細なので、画集を見る気持ちで買っても良いのではないでしょうか。著者の他の作品も読んでみたくなりました。鳩山郁子入門編として『ダゲレオタイピスト』を選んだ人は多いのではないでしょうか。月兎社発行の限定版がとても美しく、個人的に何より欲しいのが『コリンとノルウェイメープル飛行隊』なんですが、Amazonでも月兎社でも売り切れなんですよね。残念。青林工藝舎からも他に何冊か出ているので、まずはそちらを買ってみたいと思います。


(2010.1.28)
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百姓貴族 1巻


「水がなければ牛乳を飲めばいいのに」


 本誌で連載されていた頃から今か今かと単行本化を待ち続けた荒川弘のエッセイ、やっと出版されましたね!
 御存知の通り、荒川弘と言えば『鋼の錬金術師』。そんな荒川弘の根っこを作ったのが、ずっと育ってきた実家北海道の農家。読んでいると一般市民である我々とは全く違う常識で驚くことが沢山あります。エッセイの真髄と言うか、農家のことをここまで分かりやすく面白く描いてくれるとなんだか有り難みまで感じてしまうと言うか。
 掲載誌はストーリーモノよりもエッセイモノが多いような雑誌『ウン・ポコ』(影木栄貴『エイキエイキのぶっちゃけ隊!!』、久世番子『暴れん坊本屋さん』などなど)、その中でも群を抜く面白さでした。農家の贅沢な一面、一抹の淋しさを感じさせる一面や農高の忙しさ、厳しさなど、普通に生きているとまず味わうことのない経験ばかりです。北海道ならではの部分もあります。荒川弘のネタの面白さもありますが、農耕データなど色々な発見があるので農家を志す人にも良いのでは、と思うこの一冊。消費者側にも生産者の視点を通して語りかけるものがあり、お勧めです。
 しかし荒川弘が漫画家になると決心したエピソードがすごい。この人だからこそですね。


(2009.12.27)
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乱と灰色の世界 1巻


「本当はね ママみたいに飛んで行きたいの! でもやり方知らないんだよね」


 『群青学舎』以来の入江亜希の新刊です。連載しているのは知っていましたがどうにも本誌を手に入れることが出来なかったために、コミックスが初読という形に。表紙のキャラクター大集合な感じが大好きです。見てるだけで楽しい。表紙カバーを取った後の本表紙の装丁も素敵です。
 今時珍しく、ストーリーはとにかくベタベタ。古き良き魔女っ子ストーリーとでも言うのか、磐石なファンタジーです。
 跳ねっ返りで自分の力で空飛ぶことを夢見る小学四年生の漆間乱は、学校ではイジメに遭い、家では兄の陣に怒られてばかり。母の静はとても力の強い魔女なのに、その娘のはずの乱の魔法はいつも上手くいかない。そんな彼女にも一つだけ得意な魔法があった。一見彼女には大きすぎて合いそうにないスニーカー、これを履くと大人の美女に変身することが出来るのだ。
 と、簡単に説明してしまうとすごくチートでチープな筋立てなんですが、これがまた入江亜希が描くと本当に面白い。雰囲気のある絵が何か迫力を与えてるとしか思えない。私個人としては『コダマの谷』時代、と言うかそれ以前の同人活動時代の絵柄が好きなんですが、今の絵柄も華があって素敵です。この作品には今の絵柄が一番合う。作風が変わってもがっかりさせないのは、元々恐ろしく絵が上手いからなんでしょうね。大人乱の美しさには凰太郎でなくてもドキドキします。画面がとにかく豪華で、陣が走る一連の描写には引き込まれるようでした。風と光の描き方が秀逸だなあと思います。とにかく画面が眩しい。「さっきから目が チラチラする」まさにこの言葉の通りです。乱が常に輝いてます。
 成長後の乱に恋してしまった凰太郎、なかなか職場から帰って来られない母親・静、その母が見つけたと言う乱の新しい家庭教師。一巻がなかなか気になる引きで終わっているので二巻が待ち遠しいです。『Fellows!』が隔月刊なのが恨めしい。森薫の『乙嫁語り』と同じく今後が楽しみな作品です。


(2009.12.11)
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娚の一生 2巻


「過去の話をすると君は下を向くんや 過去には戻れへんのに」


 『ひとりで生きるモン!』『STAY ああ今年の夏も何もなかったわ』以来他と一線を画した漫画家だと思って見守って来た西炯子、今回はクリティカルヒット。何を隠そう、私はけっこうオジサンと若者の組み合わせが好きなのです。

 東京でデキるOLとしてバリバリ働き、少しは休んでみようと田舎に帰ってきた途端、家主の祖母が逝去。ならば、とその家を買ってでも一人で過ごそうとしたら何故か中年と初老の間のような男、海江田醇が勝手に一緒に暮らす、と言い出す始末。何が何やら、私は静かに暮らしたい! という30代、堂薗つぐみが主人公のお話です。
 とにかくその海江田さん、いい年をした大学教授のくせに、つぐみに対して押せ押せです。何だかこれがまた新鮮で、主人公が可愛くてモテるという少女漫画の典型的な恋愛話でも気にならない。西炯子の間の取り方と所々入るギャグが上手いからなのか、とにかく海江田さんの年甲斐もないアタックに不本意ながらドキドキしてしまいました。周りの人間関係も面白い。  フラワーコミックスではあるものの、対象は明らかに女子高生ではないです。仕事を経験して、出来れば結婚してある程度疲れたとき(?)に読むとしっくりくるのではないか、とのご意見あり。私もいつか妙齢に達したときにもう一度読んでみたいと思ってます。その時まだラブロマンスを楽しめるだけの心の余裕がありますように。

 『STAY』シリーズのような感覚で読むと肩透かしを食らいますが、しっとりとした恋愛を楽しみたい方にオススメ。ただヤマシタトモコの『Love,Hate,Love』でも思いましたが、年齢差の大きい二人ってどうしてこう反対されるんでしょうね。不思議。


(2009.12.11)
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シュトヘル 2巻


「殺すとか壊すじゃなくて、伝えるとかつなぐとか、そういう生き方だってあるはずだ。」


 恥ずかしながらこの作品を知ったのが2巻が出てからだったんですね。『皇国の守護者』がかなり私のツボだったので絵柄を見てピンと来て、著者名を見てガンと来て、何より表紙のユルールの眼に射抜かれました。これは買うしかない。

 結論から言うと、大変な良作だと思います。あの『皇国の守護者』を描いた伊藤悠だから、あの絵の上手さがあるから、などは全く考慮しなくてもです。ただ一巻の時点ではまだ情報量が少なく、切り捨ててしまった方が多いようです。もったいない。多少中国、というか大陸の歴史が関わってくるので読まされる方は難儀しますが、世界史(A、Bに関わらず)の知識がある人なら大体分かると思います。モンゴルが台頭しつつある時代。西夏の一兵士であった女戦士が、蒙古軍に悪霊<シュトヘル>と呼ばれるまでに至る経緯、またそのモンゴルに下らざるを得なくなったとある没落民族の首長の子であるユルールの決意、この二つを軸にして物語は進んでいきます。舞台は中国大陸、ツォグ族と滅びつつある大夏(西夏)、そしてそれより南にある文化の国、宋と非常にスケールの大きい話なので、これから長い物語になることは必至です。更に時間軸も一定していないようなので、今後の展開が全く読めません。気長に待てる人には楽しみの一つですが、まどろっこしい、という人には苦痛でしかありません。後者のタイプの人は、是非5巻ほど溜まったあたりで読んでみてほしいですね。ちなみに今のところ最新刊である2巻はかなり気になるところで終わっているので、そのような人にはオススメしません。

 称賛すべきところは多々あるのですが、まずはとにかく絵が素晴らしい。1ページぶち抜きで使用している場面の迫力は相当なものです。前作の頃から既に画力は申し分なかったというのに、ここに来て更なる成長。カラーの力強さには目を奪われます。そろそろ画集を出してもいい頃なのでは……。特に動物を描くのが非常に上手いので、騎馬民族同士の戦いを描く今作では最大の魅力です。所々入るデフォルメも嫌味でなく可愛い。読むたび見るたびに新しい発見があります。連載が月刊になったために2巻では1巻より絵柄も安定しています。アクションシーンも分かりやすく、申し分ありません。
 また、そのストーリーの中心に「文字」という文化の象徴を持ってきたこと。これは多分漫画だから伝えられるということも大きいと思います。多くの民族が文字を持たぬこの時代、その貴重な文字が失われようとするとき、人はどうなるのか。文字に初め触れたとき、人はどうなるのか。シュトヘルと文字の出会いのシーンは思わず熱くなってしまいました。これは小説だと面白さが半減していたでしょう。漫画だからこそ舞台の中での文字という要素の位置づけが自然に出来たのではないでしょうか。
 そして登場人物の造形が非常に良い。そもそも伊藤さんの絵の性質上見分けやすい顔の造形で固めてきてくれているので、「これ誰?」となることがまずありません。それぞれのキャラクターも感情移入しやすく、読んでいて気持ちいいです。特にユルールの文字に対する思いと決心が印象的。作中誰もが言うように「優しすぎる」きらいはありますが、1巻の冒頭部分を見ると彼も旅の中で少なからず成長していくのでしょう。シュトヘルがそこにどう関わってくるのか、そして1巻冒頭にどのようにつながってくるのか、これからがとても楽しみです。ハラバルとの兄弟関係も気になるところ。ハラバルがユルールを憎からず思っているであろう描写が多々あるので、個人的には彼らの関係が良い方向に向かうことを期待します。ユルール、シュトヘル、アルファルド、ボルドゥ、ハラバル、そして大ハン。この重厚な世界観の中で、彼らがどのように動いてくれるのか。キャラクターに魅力があるからこそ次を求められるというものです。

 良作になる「予感」。あくまで予感です。ただ今のところはかなり期待できるものではあるので、興味のある方は是非。


(2009.10.31)
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きのう何食べた? 3巻


「シロさんはさ ちょっとぜいたくだよね」


 いつの間にかシリーズ三冊目に突入。『大奥』と共によしながさんの代表作になるような気がするんですが、なかなか知名度が上がらないのはちょっと地味な上BLとしても中途半端だからでしょうか。多分料理本としての実用性の方が高いんでしょうね。今回も大きな事件は無いものの、シロさんが前々から抱えていた実家問題に前巻よりも焦点が当てられ、とうとうシロさんも真剣に実家と向き合わねばならない時がやってたようです。親の威厳を保ちたがる父親と、自分たちの諸経費を削ってでもシロさんに何かしらの贈り物をしようとする母親、そして未だ諦めきれない様子を見せつつも「孫」の存在を余所に求め始めた二人。そんな姿を目にして、シロさんも多少考えを改めた様子。ゲイであってもなくてもそれなりの年齢になった人であれば誰でも直面するであろう問題をリアルに描き上げるよしながさんはすごい。ケンジとの関係も決してお互いがただの依存ではないことを匂わせていて、性別関係なく理想のカップルの姿だなあと思うわけです。
 あと毎回驚かされるのが法律系の問題に関する知識。今回の和解と賠償金のことなど、私は素人なので分かりませんが、少なくとも読者に疑問と不満を持たせないあたりよく調べて書いてあるということなんでしょう。すごい。
 ちなみに今回一番ヒットした料理はケンジのサッポロ一番みそラーメンでした。素晴らしいレシピと分かりやすい調理法が載っているこの作品、読むと作ってみたくなるよねーとかシロさんのおかげでレパートリーが増えました、とかポジティブな意見をよく目にするんですが、それは料理の出来る方々の意見であって私のように目玉焼きを焦がすような人種には視覚的アピールでしかないわけです(笑) そんなわけでぱぱっと手軽にできて、かつ美味しそうなケンジのラーメン、これは誰でも作りたくなるはず! 今回ばかりはケンジに一票。
 まったくBLっぽくないので、むしろ興味がなかった、という人にこそ読んでほしい。大抵の書店では平積みか目立つところに置いてあるようなので、読んだことがない人には是非オススメしたいです。連載自体も長く続いてくれると良いですね。次巻も楽しみ!


(2009.10.24)
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乙嫁語り 1巻


「僕はアミルがもっと若かったらとか全然思ったことないからね」


 『エマ』が完結してやっと一息、と思いきや早速スタートした新連載。今回は舞台が中央アジアへと移ります。話の中心はとある夫婦、定住民族の夫カルルクと遊牧民族の妻アミル。カルルク12歳、アミル20歳と、とんだ姉さん女房です。当時の結婚適正年齢が15〜16歳だったと言いますから、アミルは相当な嫁き遅れだったのでしょう。作中でも何度か「年を取りすぎてる」との台詞が見受けられます。今じゃ考えられない話ですね。子孫を残すことが最優先だった時代ですから、しょうがないのでしょう。
 ただ表紙を見ても分かるように、一家の仲がとても良いです。嫁姑問題も排他的雰囲気もなく、皆自分たちの暮らしを自然に守って生きています。森さんの描写力と描き込みのレベルがとんでもなく高いこともあって、シンプルに一日の描写をするだけでも圧倒的な情報量です。文字で書くところをさらっと絵で表現してしまえる人ですね。装飾品などの描き込みには舌を巻くしかありません。大友克洋氏を思い起こさせる画面です。
 カルルクの年齢が若いこともあって、二人の間に性的関係はまったくありません。それでも確かに夫婦であって、本人たちはそれで良いと思っている。例えお互い顔を知らないまま結婚したとしても、お互いを好ましく思っている。一生添い遂げるものだと思っている。『エマ』は結婚するまでの過程を描いていましたが、この作品では結婚してからいかにして二人が距離を縮めていくかを描いています。アミルの行動全てから見えるカルルクへの好意や、カルルクの視線から見えるアミルを大切に思う気持ちが見ていてとても気持ち良く、これからの展開が楽しみです。

 個人的にはあの居候が19世紀イギリス、インドと何らかの繋がりがあることを期待してます(笑)


(2009.10.14)
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