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勝手にふるえてろ


「イチなんか、勝手にふるえてろ。」


 実は綿矢りさ作品を読んだのは今作が初めてです。受賞作である『蹴りたい背中』は受賞作であるが故に天の邪鬼精神が邪魔をしてどうにも食指が動かず。今回もネームバリュー云々の前に表紙のポップさとタイトルに惹かれ、何となく手に取って読み始めたのです。表紙はなかなか女性受けしそうな柔らかな雰囲気、帯も押し付けがましくないので、20代女性の目を惹き付けるには十分ではないでしょうか。
 26歳、OL、そして処女である主人公には、二人の彼氏がいる。一人は中学時代からずっと見つめるだけの恋をしている「憧れの彼」、イチ。主人公の記憶と妄想の中で、イチはいつまでも憂いを帯びた美しい天然王子である。もう一人はコンソメ系の体臭のする無骨な同僚、ニ。主人公はニのことは別に好きではないけれど、ニは主人公と付き合いたいと言ってくる。主人公はイチが好き、でもこの年になったら安定した結婚を求めたい。なら、自分を愛してくれるニの方が幸せなのでは? ある日、このままでは埒が明かないと思い立った主人公は、イチに会うべくとある計画を立てる――。

 結論から言うと、とても薄いです。特にハラハラした展開があるわけでもなく、口でストーリーを説明してしまうと「で?」で終わってしまう。とても小さい円の中をぐるりと回って大人しく丸く収まった感じ。少女漫画を読み慣れている人には取っ付きやすい内容ではないかと思います。本の厚みに反して行間も広く文字も大きいこと、また、文体が独特でテンポが良いためにさくさく読めて、長さでも内容でも軽読書に最適です。
 文体は独特とは言っても、森博嗣や森見登美彦に比べれば読みやすい以外の何物でもないし、一文が短いので情景描写と心理描写が順繰りに連ねてある感じです。会話などはやはり若者らしく、ああ若い作家さんが書いたんだなといった印象。テンポの良さと、キーパソン二人をずっと「イチ」「ニ」と呼び続けるセンス、最後まで名前が明かされないところなんかは面白いです。
 設定とストーリーの単純明快さは、やはり筆者が若いことに起因するんでしょうか。途中経過にしてもラストにしても、「ああやっぱり」という印象が拭えません。結局こうなるのね、と。でも現代の女性の価値観なんてこんなものじゃないかなあと思わないでもないと言うか、むしろ主人公に共感する女性は結構居るのではないでしょうか。シチュエーションがモロ被り、なんて人はもっといると思います。ただ主人公がオタクであるということは抜きにして。主人公の突飛さやコロコロ変わる心理なんかは、現代人っぽいなあと思いながら読みましたし、私自身も主人公の考え方に一部共感してしまうところもあったりして、私も結局は人生経験のない若輩者だからなあと反省したりもしました。(こんな偉そうなこと書いてますけども……。)蛇足ながら一応私の共感したところについて述べますと、一つは主人公の趣味、もう一つはニに対する主人公の認識とスタンスです。すごく分かる……とか思いながら読み進めましたが、ラストの主人公のキレっぷりには思わず苦笑してしまいました。アニメイト発言が何とも。ついでに主人公が反省するポイントでは同じく私も反省しました。そういう意味では、文学的なものでなく個人的に目から鱗的な驚きがあって読んで良かったなあと思います。

 総括して、宮部みゆきや伊坂幸太郎、その他受賞者の作品を読んで目が肥えている読者は、読んでもあまり面白くないかもしれませんね。むしろ普段あまり本を読まない、それこそ20代女子の方が面白く読めると思います。個人的には、文体とタイトルのセンス、冒頭の「とどきますか、とどきません。」という抽象的な主人公の内面描写から、いきなり具体的な音姫の描写に入るスイッチ加減が好きなので、ツボにはまるテーマで書いてくれたらかなり好きになれる作家さんじゃないかなあと思います。

 次回作に期待!


(2011.1.13)
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切手帖とピンセット


「やっぱり本は愛がなくちゃね!」


 今でもまだ情熱冷めやらない私の趣味の一つに、切手蒐集が挙げられます。最も行動力があったのはハマり出した小学生の頃で、あの頃は近所の家を回っては使用済み切手を貰ったりしていました。日本のものばかりでしたが、たまに混じっている外国の切手がものすごく嬉しくて、暫くはそればかり眺めていました。初めて見た外国切手は、多分ニュージーランドのものだったと思います。勿論使用済みを集めるだけでは当時求めていた綺麗でお洒落なものが手に入るわけもなく、そんな時に近所のおばさんの息子さんが昔集めていたという切手を貰い受けました。箱を開けると、中に整理もされず乱雑に入れられた切手は大量、かつ珍しいものばかりでそれからはその今まで見たこともない切手の束に満足してあまり自分から集めることをしなくなってしまったのですが(笑)、今でも綺麗な切手を見るとあの頃の楽しかった記憶と共にコレクター魂が疼くのです。

 前置きが長くなりましたが、今回この本を手にしたのはそういった経緯があるからです。未だに切手モチーフのものには心惹かれるものがあるし、切手用のツールも見ていてときめきます。この本に出会ったのも偶然で、とにかくデザインのセンスが飛び抜けて良かったために何となく手に取ったのです。中身もそうですが、まず表紙が人目を引くデザインで、ちょっと中を覗いてみたくなるような表紙です。それも祖父江慎氏のデザインだと言われれば納得がいきますね。カバーを取ってからの本体の外装も凝ってます。紐しおりも鮮やかな赤が可愛らしい。布張りの背表紙やグラシン紙、ノルディックな小物、色のコーディネートなど、是非隅々まで見てほしい。
 このデザイン、というか本自体は筆者の加藤郁美さんがかなりこだわりを持って作ったらしく、月兎社ホームページの特設ページなどでもその情熱が伺えます。冒頭の言葉も本書の後書きから抜粋。本の作り手でも読み手でも、この一言に尽きますよね。何より本書に掲載してある切手のほとんどが加藤さんの私物だというのだからすごい。1シートの切手が一枚も欠けることなく並んでいたり、FDC(封筒に切手を貼って切手発行日の消印を押したもの)やセットで揃っていたりすると圧巻です。荒俣宏や伴田良輔など著名人のコラムもあり、国別の切手紹介もあり、歴史説明もあり……切手に関する深い知識もさることながら、本文中にこそっとある加藤さんの突っ込みがなかなか面白いです(笑) 雑学や豆知識が豊富で、各国の切手のノスタルジックなデザイン(主に1960年代)を楽しめるばかりでなく、そこに存在する歴史や背景など、加藤さんの考えも交えつつ書いてあるので、視覚的アプローチと合わせて、文章も「写真集のおまけ」になっておらず興味深く読めます。これも加藤さんの切手に対する愛の成せる業ですね。私のようなにわか切手ファン、切手初心者からコアなマニアまで、老若男女楽しめる作りになっていると思うので、興味のある方は是非どうぞ。

 実は筆者の加藤さん、「月兎社」という出版社の発行人でもあります。本書を買うまで知らなかったのですがラインナップを見るとなかなか面白い本がたくさんあり、限定品でここの通販でしか買えないものも。ホームページに過去の出版物もレコードとして残っているので、見るだけでも楽しいです。ただ売り切れのものでも欲しくなってしまうのが残念(笑) しかも通販でこの本を買うと、なんと今なら掲載してあるブルガリア「子ども読書週間」などの切手が一枚付いてくるという特典付き! 私はもう本屋で購入してしまった後だったので今更買えないのですが、まだ持ってないよー欲しいよーという方は是非月兎社の通販で。本の通販だけでなく輸入雑貨の通販もあり、加藤さんの計らいで切手だけでも買えますよ。


 昔の情熱を蘇らせてくれたり、新しい素敵な出版社に出会わせてくれたりと、なかなか一粒で何度も美味しい本でした。切手カタログとしてデザインを楽しむだけでも、いかがでしょう。


(2010.1.28)
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星間商事株式会社社史編纂室


「消えることのない愛情の光を、だれかの胸に灯せる人間が、いったいどれぐらいいるだろう。」


 今回はとにかく三浦しをんの趣味爆発、と言った感じ。これまでは陸上・文楽・林業と、今まであまり触れる機会の無かった世界のことを親しみやすい文体でエンターテイメントとして発信してきましたが、今回のテーマはなんと「同人誌」。しかも「創作BL」まで絡んでくるという、恐ろしき腐女子文化への招待です(笑)。そちら側に造詣の深い読者ならまだしも、何も知らない一般の(それこそ男性の)方が読んだら一体どんな反応が返ってくるのか……少々不安でもあり、楽しみでもあります。

 今回の主役は久しぶりに女性。旧友3人で学生時代からずっと創作BL同人誌を作ってきた川田幸代29歳。コミケ(コミックマーケット)にもほとんど毎回参加している。そんな自分の趣味の時間を確保するために、きちんとした時間帯で、きちんと休日にまとまった時間が取れて、仕事がプライベートの邪魔をしない、そんな職場を希望したばかりに飛ばされた「星間商事社史編纂室」。そこでのあまりのユルさに驚きはしたものの、趣味を取って敢えてそこに安住しかけている。そんな中、ふとしたことで課長に幸代の同人活動(サークル:月間企画)がバレてしまう。「君、腐女子というやつだな。」課長の言った一言「同人誌を作ろう!」により、チャラいナンパ男の矢田、可愛い後輩のみっこちゃん、役に立たない課長プラス居るのかどうかも定かでない幽霊部長と共に同人誌を作ることに。並行して社史を編纂する中で見えてくる星間商事の影。かつてあった星間商事の闇の時代とは一体……?
 という感じのお話。アジアの架空小国サリメニを中心に、一見ファンタジーとも思えるストーリーが展開します。幸代が物書きでもあるため、作中でBL小説が展開されるのですが、これがなかなかに濃い。勿論濡れ場は描写されていないものの、本業が作家である三浦しをんが書いているものですから、大変上手い。続きが読みたくなります。松永と野宮の二人(男同士ですよ)の話が一応の完結を見せた時には思わず拍手しそうになりました。課長の創作話も、ストーリーの中核を成すある海賊の「物語」も面白い。このような世界に免疫がある人は良いですが、読者の中には三浦しをんの趣味を知りつつも受け入れられず、あるいは全く知らずに著作を読んでいる人も大勢いると思うので、大衆向けかと問われると素直にハイとは言えない作品ですね。ただ、その物書きである幸代のモノローグは、少なからず著者本人の本音も入り交じっているように見えて何だか真剣に読んでしまいました。物書き三浦しをんはこんなスタンスで執筆活動をしているのか、と勝手に思っているのですが、どうなんでしょう。
 あと、オタクに限らず女性の永遠の問題、恋愛と結婚についてがやけにリアルに語られています。友人はもう結婚して母親にまでなっているのに、私はどうなの? 私はまだオタクで居られるけど、私たちはこれからもずっとこうして居られるの? もし止めるのなら、友情は一体どうなるの? という幸代の煩悶がそのまま悩める女性たちの煩悶ですね。ストーリーが若干妄想爆裂気味(でも面白い)であるために、逆に幸代のプライベートな問題と内面が浮き彫りになっていて興味深いです。作中の登場人物達は皆それぞれに答えを出していますが、羨むべきは幸代にも一応彼氏がいること(笑) そこが現実の多くの腐女子とは違う点です。だからこそ「結婚」の二文字がリアルに突きつけられるわけですが。
 これを読んだらオタク達は勿論のこと、女性であれば誰でもその問題について考えるはず。いつまでもオタクでは居られない、いつまでも子供では居られない。そんなノスタルジアがそこはかとなく漂ってきます。ただ本当に挿入されている幸代のBL小説は本格的BL小説なので、苦手な人にはお勧め出来ません。あらゆる意味で「腐女子向け」の作品でした。

 何度も言いますが、腐女子向けですので、腐女子が読むと大変面白いと思います。


(2009.12.27)
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きつねのはなし


「彼はふいに骨張った十指をひらいて、顔を包み込み、大げさに泣き崩れているような格好をした。掌に覆われた顔が暗くなり、指の隙間から眼球がのぞいていた。」


 初期の比較をしてみようと『太陽の塔』から続けて読みました。装丁と雰囲気から怪談モノだとは思いつついつもの森見節を期待して読んだら、全く違う。あの良い感じに気持ち悪い言葉遣いが全くと言っていいほど無いのです。
 狐の面を巡る不思議な男の話を描いた表題作『きつねのはなし』、夢のような話を語る先輩との交流を描いた『果実の中の龍』、人の心を惑わせる何者かを描いた『魔』、夢か現か分からない中に幼い頃の記憶を見る『水神』。京都を舞台に展開する妖の類いを描いた全四作の短編からなるこの作品、全編通して読んでもいっそ面白いほどすっきりしません。所々キーワードやキーセンテンスは一致するものの、何かがズレている。一話一話がリンクしているようでしていない、でもやはりどこかで繋がっている気がする。だとしたら、あの「魔」は一体何なのか(と言うほど、一番分からなかった話が『魔』でした)。読んでも読んでも、読後のモヤモヤは増すばかりです。そのモヤモヤを好意的に捉えるか鬱陶しいと捉えるかは読者次第ですが、私は半々でした。京都の闇の部分に足を踏み入れたような、一度嵌まると抜け出せないような中毒性があるように思います。繰り返し読むうちに何か一本の筋が見えてくる……ような気がします。蛇足ですがやっぱり表題作が一番面白い。あの一編を軸に考えるのが一番分かりやすいのではないでしょうか。それこそ、『果実の中の龍』にあった「本当でも嘘でも、かまわない。そんなことはどうでもいいことだ」の一言に集約されています。

 異質ではあるものの、森見登美彦の可能性の大きさを思い知らされた作品でした。またこのような作品が出ることを期待しています。


(2009.11.26)
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太陽の塔


「我々の日常の九〇パーセントは、頭の中で起こっている。」 


 森見登美彦の原点でもあるこの作品、とにかく森見作品の全ての基盤はここにあるんだと思います。一つの作品として完成しながらも、『夜は短し歩けよ乙女』のプロトタイプでもあり、『四畳半神話体系』の走りでもあり、『有頂天家族』のトライアルでもあり。随所にこれからの佳作の片鱗が見られます。
 森見作品内の恋愛は、とにかく何処か気持ち悪い。妄想に基づく思考から来ているというのもあるのでしょうが、如何せんオタク臭い。そして語り口から何となく受ける自慢気な印象。これらの要素を嫌う人はたくさん居るとは思いますが、私自身はその要素が無ければ森見登美彦じゃないと思ってるのでまったく問題ありません。彼の文章からそれらのアイロニーと気持ち悪さを取ったらただの「京都での恋愛を淡々と書く作家」になってしまいます。それは嫌。彼にはこれからもある種の優越感を滲ませながら書いていってほしいです。今までの作品がキャラ付けの関係でこの文体に落ち着いたのかもしれず、全ての作品がそういった作風になるとは限らないのでどうなるか分かりませんが、これからも小気味良い自慢を期待しています。

 しかし不思議なのが森見作品に出てくる女の子が一種の「恐怖の対象」「不可解な存在」として書いてあること。長野まゆみ作品でもそんな雰囲気があるのですが、『有頂天家族』の弁天さま然りこの作品の水尾さん然り……何かコンプレックスでもあるんでしょうか?
 気持ち悪い、男臭い、恥ずかしい。こんな言葉がぴったりくるような作品ですが(誉めてますよ!)、とにかく面白い。ファンタジーノベル大賞というのも頷けます。妄想もファンタジーですからね。今と比べると文体とキャラクターの作り方に若さがあり、ライトノベル感覚で読めるので若い人にも手に取りやすいのではないでしょうか。私が森見フリークということを抜きにしても、お勧め。


(2009.11.24)
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もえない―Incombustibles


「どうして、わざわざ残るようにできているんだろう? ずっと未来まで、骨だけは残ったりするんだ」


 久し振りの読書、ということで馴染みのある森博嗣からリハビリがてら読み始めたわけですが、相変わらず森さんらしい文章です。ちょっと勘を取り戻すのに時間がかかりました。『スカイ・クロラ』シリーズがバイブルのようだった時期もあったと言うのに、本離れは恐ろしいものです。

 粗筋はリンク先で確認して頂くとして(私が書くより断然分かりやすいので)、この話、一応ミステリーに分類されるようですが正直まったくミステリーらしくありません。主人公淵田くんの一人称で話が進むものの、そこに感情描写が殆どと言って良いほど伴わないからです。見方によっては軽くホラーかもしれません。何となく雰囲気が栗本薫のホラーに似ています。文体は恐ろしく森調、特に謎を解くわけでもなくラストは急な展開なので、正当なミステリーファンには物足りなさが残るだろうと思います。導入部分が萩尾望都の『トーマの心臓』に似たものがあったため最初はこんなハードな展開になるとは思いもよらず……ただ森調のおかげであっさりと読めます。同じ事件でも宮部みゆきが書いたらもっと重いものになるんだろうなあ。読後のちょっとした不快感(森さんや内容に対するものではなく、登場人物の人間性に対する)は石田衣良の『うつくしいこども』に通じるものがあります。つまりはそういう話です。最後の一文に全てが集約されてるんですが、私はうっかりそこから読んでしまったので読んでいる間はずっとその言葉の意味を考えてました。キーワードから内容を想定しながら読み進めると言うか、そういう読み方もアリかもしれないですね。

 秀逸なのが装丁です。ハードカバー版に限りますが、とにかく表紙が内容を上手く表しています。パッと見綺麗なお花畑なので森さんの『どきどきフェノメノン』の類いの話だろうと思って手に取ったら良い意味で痛い目にあいました。読後よくよく見てみると、題字などへの細かい細工がすごいです。さすが。本の装丁が素敵ならそれだけでモチベーションが上がりますが、それに内容が伴う時の興奮といったらないですね。

 正当ミステリーファン、初期森ミステリーファン、森ビギナーにはちょっとオススメできませんが、同氏のさらりとした詩集めいた文体が好きな方には良いと思います。アマゾン評価システムを借りて評価してみると、個人的には★★★☆☆くらい。


(2009.11.10)
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天体議会


「たとえば、それは南の島影かも知れないし、もっと神聖なものかも知れない。」


 長野まゆみ作品には大まかに分けて、大人の女性向け作品と色々な意味での「子供」向け作品とがありますが、これは『耳猫風信社』の類いの後者、童話的な作品でした。長野まゆみ版『星の王子様』のようです。表紙もそれをオマージュしてある様子。

 とにかく言葉遣いが美しい。筆者の語彙が豊富なこともあるのでしょうが、それを選ぶセンスが卓越しているなあと思います。特に今回は冬の寒さを描写する言葉が印象的で、長野まゆみならではのファンタジーなルビの振り方も作品の雰囲気をオリエンタルかつコンチネンタルなものにしていました。無国籍風の世界設定が独特で素敵なので、長い情景描写も読んでいて苦になりません。
 兄との確執、銅貨と水蓮の友情、少年期と青年期の間にある微妙な時間を、星座と鉱石とノスタルジーとでしっとりと纏めた作品です。ラストには不思議な安心感がありました。特に中高生にお勧めです。


(2009.9.24)
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空の中

有川 浩
メディアワークス


「こんなことになってどうして、お前は俺を責めずにいられるんだろう。 何でお前は最後に俺を救ってくれるんだろう。」


 『図書館戦争』シリーズで有名な有川浩さんのデビュー2作目。自衛隊三部作の2作目でもあります。電撃文庫初のハードカバーということですが、私はライトノベルであることを知らなかったので一般書と認識しながら読んでました。多少ラノベ的な印象が強いにしても、これは一般レーベルで出しても問題なかったのではないかと思います。

 空の上に何かいる。今まで人間が達することのなかった高度2万kmで続発するスワロー飛行機事故。また、そことは無関係に思える場所で発見される謎の生物。事故の原因は一体何なのか。そこにいるのは一体何なのか。亡くなった三佐と一緒にいながらも自らは生き残った武田、スワロー開発会社から派遣された高巳はその原因を究明するために捜査を始めます。
 舞台設定が現代日本ということも手伝ってか、架空の「怪獣」が登場するにも関わらず非現実的な感じがあまりありません。むしろ居てもおかしくないと思ってしまう。その生物の存在が明らかになって、高度な知能を持った未知の生命体が襲ってくる、死ぬかもしれない、人類の終わりかもしれない。そんなピンチに陥った時に人はどう動くのか、社会はどう変動するのか、個人はどうなのか。その辺りの描写がかなりリアルで、読んでいて面白かったと同時に啓蒙的な作品だとも思いました。それが個人に向けられたものであれ社会に向けられたものであれ、いつか起こる不測の事態に対して人間はどう反応するのかの精巧なシミュレーションを見せられた気分です。
 そこまでの話を作りながらも作内であまり殺伐とした雰囲気が漂っていないのは恋愛要素もふんだんに盛り込まれているからで、普段恋愛モノをあまり好んで読まない私としては少なからず驚いたものの、出てくる二組のカップルを知らず知らずのうちに応援していました。登場する女性が一本はっきりとした芯を持っているからでしょう。かなり甘い台詞を吐くことも多いのですが、何故かさっぱり割り切って読めました。基本的に口語調なので自然と流れに沿っていたんだと思います。高巳の弁論法や真帆の巧みな話術など、しつこくなくサクサクと読ませてしまうのは素直に感嘆します。会話の「今っぽさ」が有川さんの大きな魅力ではないかなと。

 二作目から読んでしまったので一作目に戻るのは少し気が引けるのですが、次はこの勢いで『塩の街』を読めたら良いなと思います。忘れがちですが、これ電撃文庫なんですよね。電撃文庫の本気を見せつけられた作品でした。


(2009.9.22)
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神去なあなあ日常


「こわくて、うまく踏み入ることもできなくて、でもいつだってうつくしい。」


 まず不思議なのがタイトル。書店で見つけた時には思わず首をひねって考えてしまいました。神去? なあなあ? 一体なんぞや。読み始めれば何のことはない、「神去」村の「なあなあ」な「日常」を描く物語だからこそ、このタイトルなんですね。『仏果を得ず』においてその道のことを何も知らないままでもただ好きだからという理由からひたすら進む(進んできた)主人公の青春を、『風が強く吹いている』において自分の本当に好きなことをする、また出来る喜びを描いてきた三浦さんですが、今回はその2作と似た雰囲気が感じ取れます。いわゆる青春ものですね(ここで言う青春の定義は『風が強く吹いている』で自分なりのものを示したつもりです)。
 さて、『仏果を得ず』での文楽というのも変わったチョイスだと思いましたが、なんと今回のテーマは林業。斜陽産業だと言われ、地味な野良仕事だと思われているあの仕事です。実際私もこの作品を読むまではそう思っていました。それがまた三浦マジックというか、読んだ後には「林業って、面白いのかもしれない!」と思わせてしまうだけの魅力があるのです。
 就職するでもなく進学するでもなく、ただぼーっと都会で過ごしていくんだろうと思っていた高校(卒業)生、勇気。父親からの餞別三万円を手に、何やら訳も分からぬまま神去村というところへ送られることに。親からは特に惜しまれることもなく、友人たちには笑われるだけ、村に着いたら何故かヨキという謎の男に携帯を壊される。何をするのかも分からないままチェーンソーの使い方を教え込まれ、何故か美人の多い村で毎日いっぱいいっぱいな上肉体労働。俺は何でここに居るんだ。林業って、木って一体何なんだ!  というノリで始まる勇気くんの日記形式で物語が進んでいくのですが、とにかく面白い。林業の苦しみとは何ぞや、喜びとは、悲しみとは。都会の喧騒から遠く離れた神去村で、恋をしたり敗れたり、誉められたり貶されたり。勇気の一年が彼自身の突っ込みを交えつつ描いてあります。林業に全く興味がない方でも楽しめるはず。特に祭のシーンは光景が目に見えるようで、勇気たちと一緒になってエキサイトしていました。

 こてこての一人称なので苦手な方もいらっしゃるとは思いますが、内容はそれをカバーして余りある面白さです。未読の方は是非!


(2009.9.19)
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弥勒の月


「確かなことは、傍らにいたということだ。おれは確かに、弥勒の裳裾を握っていた。」


 『バッテリー』『No.6』などのティーン向け、ティーン視点の作品で有名なあさのあつこが、まさか時代小説を書いているとは思いませんでした。その珍しさもあって手に取ったのですが、これは人によって好みが分かれるかな、といった印象。ジャンルは一応ミステリー、捕物帖になると思います。あさのあつこならではのシンプルな文で書いてあり、かつ藤沢周平のような本格的な時代小説でもない(ような気がする)ので諸田玲子の『あくじゃれ』シリーズより更に読みやすくなっています。本格的なミステリー、時代モノを求める方には向きませんが、一般的な作品としてはかなり楽しめるのではないでしょうか。

 遠野屋のおかみ、おりんの身投げを機に次々と起こる事件を軸に、年若き同心・木暮信次郎とその手下である岡っ引きの親分・伊佐治の二人が調べていく中で、徐々に明らかになる遠野屋の闇と人間の心理。前半の先へ先へと読ませる筋の立て方は、流石あさのあつこだなあと思わせます。後半は正当な時代小説としてはあまり無い、と言うかなかなかエンターテイメント性の高い展開となっていくので、この辺りで評価が分かれるのではないでしょうか。私自身読んだ時には軽く拍子抜けしたので、受け付けない人もいるでしょう。

 それでもこの作品の評価されるべきところはそこではなく、事件が明らかになるにつれて共に明らかにされる登場人物の心の闇と人間心理の描写だと思います。人生は退屈なものだと自暴自棄の気がある信次郎も、過去の柵を抱えながら信次郎を支える伊佐治も、人には決して本心を見せず心に厚い壁を作る清之介も、立場や境遇は違えど誰もが何かしらの闇を抱えています。ラストに向けてそれが徐々に明らかにされていき、終盤の会話にはぐっとくるものがあったのですが、そのラストも彼らのその後が大変気になる書き方をしてありました。ただその書き方とラスト3ページへの持って行き方が個人的にとても良かった。あれを最後に持ってきたことで、多少なりとも救いがあったのではないでしょうか。映画『シックス・センス』(1999、M・ナイト・シャマラン)におけるビデオレターのシーン(未公開カット)を思い出させます。結局、彼らが抱え込む闇を昇華出来たか否か、幸せになったか否かは読者の想像に託されたところもあるのでしょう。そう思うとあのラストはそれなりに幸せなものに成り得るのではないでしょうか。

 総合的に見るとミステリーや捕物帖と呼ぶには少し弱く、登場人物がかなり魅力的なので彼らの心情に焦点を当てて書いてくれるともっと良かったかなあと思います。多少読者側に知識を求められる作品ではありますが、あっさり読みやすいので是非どうぞ。


(2009.9.18)
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